■軒下も辛い!  
(ぺー族)  
 
 “四川料理は辛い”というのは周知のことだが、どうしてどうして、雲南料理も辛い。
 雲南省昆明市に住んでいたとき、光生街に好んで入っていた騰衝料理店があった。地元民に人気があり、大きな店なのにいつも満席に近い。ある時、父親に連れられた5、6歳の男の子と相席になったことがある。麺が運ばれてくると、男の子はテーブルにあった唐辛子をたっぷり大さじ一杯振りかけた。たちまちどんぶりの表面は赤い粉で覆われ、それを美味しそうに食べている。つねづね料理の辛さに辟易し、「雲南人はいったい何歳頃からこんなに辛いものを食べるのだろうか」と不思議に思っていたので、食べるのも忘れ見入ってしまった。
 そんな具合だから、どこへ行っても雲南の食堂では唐辛子攻めに遭う。それは、昆明より辺境に行くほど激しくなるように思う。だから辺境の食堂で料理を注文するときには、必ず言うことにしている。
 「不要辣椒、不要味精、油少一点儿(唐辛子と味の素は使わないで。油は少しにしてください)」
 「わかった!」と返事が返ってくるのに、厨房からは唐辛子を炒める強烈な臭気が漂ってきて、運ばれてきた料理には唐辛子が10数本も入っていたなどということもたびたびだ。
 自由市場の唐辛子売り場は盛況だし、農家や食堂には大量の唐辛子が干してある。唐辛子の赤は美しい。乏しい色彩の中でハッとするほど目を惹くから、唐辛子のある風景は大好きだ。とはいえ、ここではあまりにも大量の唐辛子群に目を見張った。昆明と大理を結ぶ幹線道路沿いにある食堂の裏庭。美味しい蜂の子料理があるのでたびたび寄る店だ。軒下という軒下にはぐるり、大量の唐辛子が干してある。これだけ赤い風景を見ると、「不要辣椒」などと注文をつけても、たいして効果はないと諦めがつくというものだ。(1996.9 雲南省大理ペー族自治州。撮影:工藤綾子)
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